知財漫画・おと猫まいこーVol.15

サンプリングの著作権(後編)

解説
Bridgeport Music v. Dimension Films事件
  • N.W.A.の「100 Miles and Runnin’」におけるFunkadelicの「Get Off Your Ass and Jam」からのサンプリング
  • Get Off Your Ass and Jam
     https://www.youtube.com/watch?v=ljqo6iCOAaU
  • 100 Miles and Runnin’
    https://www.youtube.com/watch?v=GiDti_Xnnmo
  • “Get Off Your Ass and Jam”冒頭のC.U/C.D/P.Oのギターフレーズが、”100 Miles and Runnin’”の1:08や2:09あたりで、バックにうすーく流れています。
VMG Salsoul v. Ciccone事件
de minimis法理

de minimis法理は、ラテン語の「de minimis non curat lex」(法は些事には関与しない)に由来する法的原則です 。著作権法においては、コピーされた部分が原告の著作物において質的・量的に取るに足らない些細なものであれば、著作権侵害を構成しないという考え方を指します 。

上記2つの裁判はde minimis法理を適用するかしないかで判断が分かれました。

Bridgeport事件ではde minimis法理を採用せず、ほんの少しでも、たとえ加工されていても、サンプリングしたらそれはすべてアウトという判決でした。この判決は音楽業界に大きな影響を与え、サンプリングを使用するアーティストは、著作権者の許諾を得るための費用や手続きが増加し 、サンプリングの使用を断念するケースも増えました。

しかし、Bridgeport事件の判決はアメリカ国内でも必ずしも支持されているわけではありません 。これがその後のVMG Salsoul事件の判決につながります。

VMG Salsoul事件において、米国第9巡回区控訴裁判所はde minimis法理を適用し、わずかなサンプリングであれば著作権侵害とはならないとの判断を下しました。

両事件とも控訴審判決で、その後最高裁までいった事件はないため米国では両控訴審判決が対立した状態となっています。

Pelham事件

本編ではスペースの関係で紹介できなかったのですが、欧州でサンプリングが争われた事件としてPelham事件があります。あのクラフトワークの曲からサンプリングされました。サンプリングされた部分もサンプリングな気がします、曲のサンプリングではなく、何か叩いてる音ですが。

  • Sabrina Setlurの「Nur Mir」におけるKraftwerkの「Metall auf Metall」からのサンプリング
  • Kraftwerkの「Metall auf Metall 」
    https://www.youtube.com/watch?v=JlatOPOMlyA
  • Sabrina Setlurの「Nur Mir」
    https://www.youtube.com/watch?v=hUVjCHiOwkU
  • “Metall auf Metall”の0:36からの左ch→右chにパンニングされている恐らくサンプリングによるパーカッションパターンが、”Nur Mir”冒頭から全編に渡って使われています。

この事件でEU司法裁判所は、サンプリングした部分が非常に短いものであっても原則として複製権侵害の対象となると判断しました。

しかし、同判決は上記の原則の例外として、サンプリングについて「新たな作品を創作し、その中で元の音源を耳で識別できないように変更された形式で使用すること」は、複製権侵害には該当しないという判断を示しました 。

これは、全てのサンプリングを一律に侵害とせず、元の音源を耳で識別できるか否かで線引きし、識別できる場合に限って複製権侵害とするものです 。

EU司法裁判所は、知的財産権が絶対的権利として保護されるものではなく、著作権者の利益と芸術の自由を含む基本的人権との公平なバランスが重要である点を強調しました 。また、耳で識別できない程度のサンプリングは、元の音源のレコード製作者の投下資本回収の機会を実質的に阻害しないため、著作隣接権の保護目的にも反しないと指摘しています。


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